いい加減な出勤簿 後編

いい加減な出勤簿 後編

幽霊社員というのは社員簿(出勤簿)には載っているが会社には殆ど出勤しない社員のことを言う。

手数料制の渉外員とは違う。仕事は全くしていないというと語弊があるかも知れないが、実務には携わっていない事は間違いないだろう。

一時、小泉首相が国会で問題になった「横須賀の不動産会社の幽霊社員」であったと暴露されたが、あれと同じだ。

この人達は毎日何をしているのだろうか?

一説によればゴルフ、麻雀、夜は銀座あたりに徘徊していると聞く。

政府、銀行、国鉄が株主であった為に「訳アリ」社員を受け入れざるおえないのだ。

選挙で落選中の人、誰かの責任を代わりに背負って職には付けないがお金の面倒は見なければならぬ人などがその対象者で一応社内的には調査役とか主査とか顧問とかそういうタイトルで在籍していることになっている。

今こんなことをしたら税務署も黙ってはいないだろうが昔はいい加減なものだったのだろう。日本航空、国鉄にはもっとこれらの人達がウジャウジャしていたと聞く。

縁故社員というのはこれらの株主の子息や政治家、秘書などに支持者が就職相談に行き、その口利きで入社した社員のことである。

一応入社試験は受けるが、受ける前から合格と決まっているのだから大学の裏口入学と同じで、これも入社後正規で入社した社員との実力の差が余りにも大きいのですぐそれと分かる。

幽霊社員は短期、縁故社員の待遇は一般社員と全く変わらないが出世する可能性は低いと考えた方がよいであろう。

私のいた係は非常に仲間意識が強く、係長を始めとして運命共同体的感覚があり、何か面白い仕事話(旅行とは限らない)や大きな取引が成立しそうな時などはこの出勤簿を悪用してプロジェクトを組んだ。

即ち、必要があれば会社には出社しなくても係の者が相互に援護して「立ち寄り」「直帰」の届けを出し本人は夜討ち朝駆けで仕事に専念するわけである。

出勤簿上は会社にいることになっているが実際には北海道でゴルフをやっていたり、どこかの温泉旅館でお客を接待したり、沖縄で休養を取っていたりするのである。

何故こんなことをするのか、というと、この会社は非常に組合が強い。

地方出張に行くとなると出張旅費や支度金、日当、代休が義務付けられる。

本人にとっては結構なことだが、これは迷惑になる。どうしてか?

その分の費用はその係の来年度分の予算に跳ね返ってくるのだ。

早朝出勤、時間外労働、残業手当これらは従業員にとって良さそうに見えるが結果として自分の首を締めることになる。

実るか実らないかの段階でこれらの費用を会社に請求することは簡単だが、もし獲得に失敗したらその分をどこかで埋めなければならない。

自由にフリーハンドで獲物を追いかけたい、その為には組合で決められた就業規則は守っていられないのだ。

商売は自分だけの独占事業ではない、競争相手がいて彼らは給料が安いし就業規則などはない。敵が鉄砲を打ってきているのにこちらは専守防衛だといって正当防衛が成立するまで攻撃することが出来ないのに良く似ている。

この方法を使って私は1カ月間会社に1日も出勤しなかったことがある。

実際には海外に行っていた。

香港、韓国、台湾、フィリピンに裏金作りに行っていたのだ。

営業には表の金も必要だが裏金が金額以上の価値を持つことがある。

営業にいた人ならば良く分かって貰えると思う。きれいごとは誰でも言える。けど営業は戦争だ、汚い手も使ってもよいし騙しても良い。勝ったほうが勝利者となる。

具体的には海外の旅行社と組んで手数料を蓄えさせ、それを裏金として還流させるという手法だ。

田中角栄のロッキード事件の構図と全く同じ、金額が小さいだけ。堂々とした外国為替法違反だ。既に時効が成立しているから話す。

その時は田中角栄に限らず全ての商社、外国と関係のあるメーカーは同じことをやっていた思う。

今、私がいた会社が当時のままの制度を使用しているとは思われない。

とてもゆるやかな、管理がまったく行き届いていない制度だ。

とても現在の管理社会には許されない制度であり継続することは困難だと思う。

が、この会社はユニオンショップ制度(社員全員がひとつの組合に属し、組合員でなくなれば社員でもなくなる)を強いており、現在でもこの制度は維持されているところをみると、その名残は少しはあるのではないかと想像する。